【小説】異類婚姻譚/本谷有希子

異類・異形との婚姻大好きなのでタイトルで手に取ったのですが、「異類婚姻」ってそういう意味か。狐や鶴、鮒女房のような寓話のテイストを持ちつつ、しっかり現代の家庭・婚姻を描いたグロテスクな一冊でした。

■公式紹介文

子供もなく職にも就かず、安楽な結婚生活を送る専業主婦の私は、ある日、自分の顔が夫の顔とそっくりになっていることに気付く。「俺は家では何も考えたくない男だ。」と宣言する夫は大量の揚げものづくりに熱中し、いつの間にか夫婦の輪郭が混じりあって…。「夫婦」という形式への違和を軽妙洒脱に描いた表題作が第154回芥川賞受賞!
自由奔放な想像力で日常を異化する傑作短編集。

■書籍情報

出版社:講談社文庫
著者:本谷 有希子
定価:616円
発売日:2018年10月16日
判型:A6
ページ数:192ページ
ISBN:978-4-06-513224-1

■感想

中編1作、短編3作が収録された一冊。
テーマは「家庭」。そしてその中の「専業主婦」なのかなと思います。
独身独り身喪女の私には共感できない部分もありつつ、主婦の悲哀として楽しめました。

異類婚姻譚

表題作の中編。
うーん、世の専業主婦がすべてこういう考え方ではないと思いますが、「散々夫の稼ぎと言葉に甘えて楽な生活しているくせに」というのと「そんな夫ならさっさと捨てちゃえばいいのに」と思ってしまい私はなかなか主人公に共感できず……。
現実と妄想の間を行ったりする主人公の視点や表現は面白いのですが、いささか冗長表現というか途中からくどくなってきます。このあたりの表現方法で「異類婚姻譚」という寓話を想起させたいのかな?とは思います。(作者の他作品を読んだことないのでお家芸だったらすみません)
物語の落ちとしては男女逆転で男が「花」となって手折られたりは面白いんですけれどね。
主人公が怠惰でなけく「大黒柱の妻と主夫」であればバランスとれそうなラストでしたね。竜胆はそういう意味なのかな。

しかし並行して語られる隣人老女による猫捨て話。猫飼いとしては絶対に許せないやつですね。
姥捨山を表現しているのでしょうが、捨てられるのが猫(や小動物)なのは心がスンっとしちゃいました。悲しい。

トモ子のバウムクーヘン

昼下がりにバウムクーヘンを作っていた専業主婦が見た白昼夢。SFチックな主婦の気づきと自覚のお話。育児ノイローゼなのかもしれないし、登場しない夫との間に問題があるのかもしれない。足下が不安定な家庭生活の中で気付いた違和感であり泡沫の生活への恐怖を描いた作品なのだろうな。
けれど、彼女はずっと気付いた違和感を抱えながらその後も生きていきそう。熟年離婚などはありそうだけれど、家庭から出て行くような選択を選びそうにない専業主婦思考っぽい。

<犬たち>

本書の中で唯一明確に主人公が主婦ではない作品。そしてパートナーもおらず引きこもり気質な主人公。
が、描かれているのは「犬」の姿をした「家庭」のメタファーなんだろう。集合体に対して溶け込むこと。集団に帰依し仕えること。それで初めて外から来た嫁は家庭や村といった集合体の一員になれるんだろうなぁ。それが良いことなのかどうかは、最後に犬たちに向けた銃口に現れているのだろうけれども。
本書野中で一番好きな話かな。

藁の夫

文字通り「藁」でできた夫。そして典型的なDV夫。
本日の焚き火会場はこちら。

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投稿者:

霜月 六花

おんな2人(人間一人と猫一匹)で極楽な生活を満喫中。 趣味の読書や映画の記録をゆるゆると綴っていきます。

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