他の映画を見に行った際に予告で『ミッド・サマー』を制作したアメリカの配給会社A24の作品と大々的に広告しているのを見て気になった作品です。
『ミッド・サマー』は好きな映画なので、こちらもどうかな?と予告映像以外は全く見ずにワクワクしながら映画館へGO!してきました。
■基本情報
公開日:2022/12/9
監督・脚本 :アレックス・ガーランド
制作 :アンドリュー・マクドナルド、アロン・ライヒ
主演 :ジェシー・バックリー、ロリー・キニア
配給 :ハピネットファントム・スタジオ
■公式あらすじ
夫の死を目の前で目撃してしまったハーパー(ジェシー・バックリー)は心の傷を癒すため、イギリスの田舎街を訪れる。
そこで待っていたのは豪華なカントリーハウスの管理人ジェフリー(ロリー・キニア)。
ハーパーが街へ出かけると少年、牧師、そして警察官など出会う男たちが管理人のジェフリーと全く同じ顔であることに気づく。
街に住む同じ顔の男たち、廃トンネルからついてくる謎の影、木から大量に落ちるりんご、そしてフラッシュバックする夫の死。
不穏な出来事が連鎖し、“得体の知れない恐怖”が徐々に正体を現し始めるー。
■感想
うーん、よくあることですが邦題詐欺ですね。
サブタイトルの「同じ顔の男たち」は全くもって不要です。
タイトルと公式あらすじから男たちの顔が同じことがストーリーの主題のホラーかと思いましたが、作中でその部分は全く触れられず。むしろ先入観から鑑賞中のノイズになっていました。
「個々の人間」ではなく「集合・記号としての男性」を表現しているのはわかるのですが、そこは観客が自分で気付くかエンドロールを見てのアハ体験的なものでも良かったのでは?と思います。
ぶっちゃけ、違和感は感じつつも言われないと私は全員が同じ俳優であることに気づけなかったのですよね。
そして肝心の内容としては賛否あると思います。
男性と女性で受け取り方が大分違うんじゃないですかね。
前半ののどかな田舎町の風景、森の中の小道を歩くシーンはとても良かったです。私も何もかも投げ捨ててああいう所でリフレッシュしたいー。
が、そこから湧き出る異物。じわじわと生活に侵食してくる違和感と恐怖。
この辺の描写は『ミッド・サマー』と同じく宗教的カルト的な怖さもありつつ、今回の主題は女性蔑視・ミソジニーですね。
あくまで宗教的モチーフとして登場するリンゴの実、グリーンマン、シーラ・ナ・ギクは性差やその役割を強調するためのツール。そして観客の恐怖心を煽るアイコン程度かな、と思います。
「驚愕のラスト20分!」とか煽り文句が付きそうですが、ラスト20分なぁ……。
私は内心大爆笑だったのですが、嫌悪感強い人も多そうですね。出産にトラウマとか、血が苦手な人は見ない方が良いかもです。
何より曖昧にぼかされたラスト。
私は「元旦那を殺してさっぱりすっきり前を向いて歩いて行こう男からの解放エンド」だと思っていたのですが、退席時に前方にいた男性二人組は「夫を受け入れて自分の罪を受け入れたので憑き物が落ちた顔してた」と解釈していて、なるほどなぁと思いました。
それだとラスト20分の無限出産ループで途中からハーパーが恐怖から呆れの表情に変わっていること違和感感じるけれど。そして男性主体の解釈でううむ。
どこまでも被害者意識の男に、ひたすら恐怖を与え続けられる女。日本社会においても限りなく真実ですよね。全ての男性が当てはまるわけでは無いですが、大多数が旧態依然の状態。
そういう、被害者面している加害者と真の被害者で、鑑賞後の印象が違うのは面白いです。
いつでも女性に甘えてバブちゃんしている男性や女性を支配下に置いている・見下している男性的には、「どんなことしても結局最後には俺を受け入れて甘やかしてくれるでしょ?言うこと聞くでしょ?」なんだろうなぁ。滅べば良いのに。
本作、男の嫌なところの集合体なので、トラウマある人は見るの気をつけて欲しいですね。
そして、見た男性は「気持ち悪い」「嫌な気持ちになった」ではなく、是非自分事として考えていただきたい。でも、この手の話って当事者ほど他人事として考えるか娯楽としか受け取らない……。
または、劇場にいたお兄さんたちと同じく、自分の都合の良いようにしか考えないのよね……。
私は面白かったけれど、一回見れば満足かなぁ。
ミッド・サマーは夏至が来ると見直したくなるけれど、この映画にそこまでの魅力は個人的には感じられませんでした。