「ぼぎわんが、来る」から続く「比嘉姉妹シリーズ」の第三作目。
短編6編からなるシリーズ初の短編集です。
短編集のため、今までの本編に比べると各話丁寧に恐怖を描かれるわけではありませんが、それでも十分にシチュエーションホラーとして楽しめます。
そして何よりも本作、野崎の学生時代や真琴と野崎の出会い。美晴と琴子といった比嘉姉妹の学生時代など本編の時間軸では語られない話が盛りだくさんなので、登場人物のファンとしては見逃せません。
■公式紹介文
「などらきさんに首取られんぞ」祖父母の住む地域に伝わる“などらき”という化け物。刎ね落とされたその首は洞窟の底に封印され、胴体は首を求めて未だに彷徨っているという。しかし不可能な状況で、首は忽然と消えた。僕は高校の同級生の野崎とともに首消失の謎に挑むが……。
野崎はじめての事件を描いた表題作に加え、真琴と野崎の出会いや琴子の学生時代などファン必見のエピソード満載、比嘉姉妹シリーズ初の短編集!
■書籍情報
出版社: 角川ホラー文庫
著者:澤村伊智
定価: 704円
発売日:2018年10月24日
判型:文庫判
ページ数:304
ISBN:9784041073223
■感想
各話、どれも良いのですが、特におすすめの話をあらすじ含めて軽く紹介させてもらいます。
居酒屋脳髄談義
個人的に一番好きな話です。
居酒屋で部下の女性社員にセクハラ・パワハラをする三人の男性社員。いつもはオドオドとして男性社員の笑いの的。ストレス発散の捌け口となっている彼女が、今日はどこか様子が異なる。淡々とした態度で言葉を重ね、三人を論破していきます。
どこの時代、場所にも勘違いセクハラ・モラハラ親父はいるんですよね。男であるというだけで、女に比べ上位種であるかのように勘違いしている。あくまで人間という種であり男と女の二種しかいないのに。
そして人間の記憶・思想、霊という者の記憶媒体は何なのか。居酒屋で語られる談義に「なるほどな」と膝を打ちながら楽しめました。
ファインダーの向こうに
野崎と真琴の出会いの事件。
野崎が仕事で訪れた幽霊が出ると噂のスタジオで、オカルトカメラマンが撮影した写真。撮影は何事もなく完了したが、撮影した写真の画像には撮った覚えのない、スタジオでは撮影できない風景写真が紛れています。
その写真の調査の依頼を真琴が受けたことが、二人の出会いです。
あくまで第三者目線で語られ、二人がいつどのような形で引かれあったのか明確に語られないのが個人的にはツボです。とても良い。
ここから二人ははじまったのかとニマニマしてしまいました。
その他、真琴が今住んでいるマンションの一室に住み始める原因となった事件、美晴が中学校で解決した事件。野崎が学生時代に出会った、友人の田舎の伝説とその結末の話など、多種多様なホラーが詰まっています。
本書単品でも楽しめそうですが、登場人物は既刊シリーズに登場した人ばかり。
そのため人物像をあらかじめ知っている方が楽しめるだろうなと思います。読めなくはないけれど、だいぶ薄味になってしまいそう……。シリーズや作者の雰囲気を掴むために本書から手に取るのもありかとは思いますが、この辺はご自身の楽しみ方次第ですね。
元からシリーズのファンの方は問題なく楽しめると思います。