『木曜日にはココアを』がとても良かったので、同じ作者の作品を読みたく購入しました。
私自身が横浜出身(祖父母は鎌倉)でして、本書の舞台が鎌倉ということもあり気になり手にした一冊です。『木曜日にはココアを』の続編や作者の新作も気になりましたが、私が文庫本派ということもありとりあえず既刊を。通勤中に読むので、単行本は持ち運びに不便で手が出しにくいのですよね。特に毎日PCとiPad、手帳にノート……と荷物が多いので、肩が死んでしまうのですよね。
本書は『木曜日にはココアを』よりもSFよりなお話ですが、ほっこり安心して読める一冊でした。
■公式あらすじ
古ぼけた時計店の地下にある「鎌倉うずまき案内所」。
そこには、双子のおじいさんとなぜかアンモナイトが待っていて……。
会社を辞めたい20代男子。ユーチューバーを目指す息子を改心させたい母親。結婚に悩む女性司書。孤立したくない中学生。40歳を過ぎた売れない脚本家。ひっそりと暮らす古書店の店主。平成を6年ごとにさかのぼりながら、悩める人びとが「気づくこと」でやさしく強くなる――。
ほんの少しの奇跡の物語。
■書籍情報 出版社 :宝島社文庫 著者 :青山美智子 発売日 :2021年4月7日 価格 :825円(税込) 判型 :文庫判 ページ数 :400P ISBN :978-4-299-01490-0
■感想
六編からなるオムニバス形式の短編集。
タイトルの「鎌倉」とある通り、舞台は神奈川県鎌倉市。
鎌倉駅周辺の小町通りや由比ヶ浜など、神奈川出身の私には馴染みの街で、読みながら「これはあの辺かな」「あのお店のことか」など想像しながら読むのも、地元民ならではの楽しみかもしれません。京都が舞台の作品を読んだことがありますが、あれも地元の人はこんな気持ちで読んでいるのか、と少し共感できました。今まであまり地元が舞台の作品を読んだことがなかったので新鮮です。
前述の通り舞台は鎌倉。
道に迷った六人の主人公がたどり着いたのは、古ぼけた時計屋の地下にある「鎌倉うずまき案内所」。皆それぞれに不思議な場所にある案内所に疑問を持ちつつも、螺旋階段を降り案内所を訪れます。
扉を開けると、向かい入れるのは小柄な双子の老人と、壁に掛かるアンモナイトのような巻貝。
「はぐれましたか?」という言葉と共に現れ、自分の中の迷子の心をゆるゆると解かれていく主人公たち。それぞれの事情に迷い惑う主人公たちも、最終的にはみんな幸せに向かって進んでいってほっこりする一冊です。安心して読んでいけます。
個人的な話なのですが、この本の前に読んでいたのが甲田学人先生の作品だったので、正反対のベクトルのメルヘンで心の風邪を引きそうになりました。
主人公たちの迷いを聞いて「ナイスうずまき!」の言葉と共に告げられる意味のわからないお告げのようなアドバイスが、回り回って良い未来に繋がっていく。私の迷いも聞いてくれないかしら?と思わず思ってしまいます。
巻末に年表が記載されていますが、章ごとに少しずつ過去に遡っていく構成になっています。各章の登場人物の若い頃が次の話に出てきていたり、成長後の姿が見られたり。一度全部読んだ後にもう一度最初から読みたくなります。
私が特に好きなのは、最後の二編「一九九五年 花丸の巻」と「一九八九年 ソフトクリームの巻」です。
読み手によって好きな話は変わりそうなので、是非お気に入りの一編を見つけてほしいです。