表紙&タイトル買いした一冊です。
コロナ禍真っ只中のカジュアル・イタリアン店を舞台に、元社員の現在パートの主人公が奮闘するお話。
■公式紹介文
新宿の駅ビルに入っているイタリアン・マルコ新宿店で、店長の皆見から通達があった。「明日から店は休業です」。コロナ禍による第一回目の緊急事態宣言。パートで働く鈴木六花は独り暮らしの中、孤独を深めていく。そして、休業が明けても客足は戻らず、課題は山積みだった。それでも六花は店の立て直しに奮闘する。2020年からコロナ禍で分断された社会の中で、もがきながら光を探す希望の物語。
■書籍情報
出版社:集英社文庫
著者:長月 天音
定価:693円(税込)
発売日:2022年4月21日
判型:文庫判
ページ数:304
ISBN:978-4-08-744380-6
■感想
コロナ禍の緊急事態宣言。
あれからもう3年経っているのかと、現実の時間の流れの速さに気づかされ驚きました。
実際に飲食店で働いている人には若干トラウマがよみがえりそうでおすすめしづらく、飲食関係のない業界にいた私としては渦中の職業に疲れている方達の多大な苦労と努力を垣間見ることができた作品でした。でも飲食業界の人のほうが主人公や周囲への共感ができそう。
どの業界も手探りで、様々な情報が錯綜し、緊急事態宣言やオリンピックもあったコロナ禍一年目は大変でしたが、「リアル」での「人と人との接触」が必須となる飲食店は、医療関係や生活必需品の次くらいに影響を受けた現場ですよね。私が引きこもっていた裏でこんなことが全国各地で起こっていたんだよね。と改めて感じました。
作中では第五波までを描いているのですが、当時の閉塞感や時折訪れる解放感は今もあまり変わらない気はしますね。外食は当時よりも少し利用しやすくなりましたけれど。
逆に、第四波あたりから私はせっかく外出・外食するなら「お気に入りの店をよく利用しよう」「ちょっと高くても行ってみたかった店・気になっていた店を積極的に利用しよう」と思うようになったなぁ。今もそうだな。と振り返って見て思いました。
もともと私はほとんど外食しない人間だったのですが、「お店がなくなるのは嫌だ」と波が少し収まった頃から積極的に「おひとり様での外食」が増えた。近所のお店などテイクアウトしているなら積極的に活用する。など、コロナ前とは変わったなぁと思うと感慨深いです。
私の勤める業界が、経済的打撃をそこまで受けなかったので、その分「周りに還元・経済回そうぜ!」と若干お金に関する考え方が変わったのかも知れない……。
話が脱線しましたが、そんなコロナ禍が始まった当初からが舞台の本作です。
当時の飲食業界の努力・苦悩・そして大事にしていることが詰まった一作でした。
主人公の葛藤が主題の物語なのですが、如何せん飲食業界・カジュアルイタリアン・メイン商品はピザ!ということで、読んでいてひたすら窯焼きピザが食べたくなりました。薄くて耳がぽってりしたナポリピザ。トマトとシーフードたっぷりのやつ。思わず読後に近所にお店が無いか探しました。アメリカンなピザもいいのですが、この作品に出てくるのとはちょっと違うんですよ。ついでにテイクアウトやデリバリーではなく、ちゃんとお店で食べたい!と思わせる作品です。
ただ、主人公があまり私の周囲にいないタイプ。かつちょっと苦手な熱血なタイプなので主人公への感情移入があまりできないのがちょっときつかったかもしれません。なんというか「同僚にいたら嫌」なタイプの主人公。
言っていることは正論なのでしょうが、あくまで「パート」の主人公(しかも結婚を期に正社員をやめてパートになったが、離婚後も正社員に戻らずパートのまま)が「店長と同期」「ベテランパート」だからと店舗運営やその他諸々そこまで口を出すの?店が大事なのはわかるけれど……と、モヤモヤする。私が飲食業界に詳しくないので、こういうのが普通なのかな。主人公自身も葛藤している描写はあるけれど……。
「ここが私の唯一の居場所なんだ」とか言いつつ、正社員として売上の責任とかは負わずに「楽なパートでいます」って判断をした癖に、店長や本部社員に意見するし我を通す。それが最終的に「社長に乞われて」もう一度正社員になります。も出来すぎたストーリーだなぁと思ってしまいました。
現実社会の平凡サラリーマンには真似できないけれど、真似できないからこそ、こういうタイプが出世するのかもしれませんね。